はじめに
バードウォッチングを始める最初に、特に必要な道具はありません。双眼鏡や望遠鏡は、あればもちろん便利ですが、高価な物なので自分に適した物をよく検討したり、バードウォッチングの先輩のアドバイスを聞いたりしてから購入された方が良いでしょう。
何を始めるにも、まず、道具や支度から…という人もいて、それはそれで一つのやり方だし、「元がかかっているのだから、ある程度は続けなければならない」と、自分で自分にプレッシャーをかける人もいるようです。でも、始めたばかりの方は、手ぶらで観察会に参加なさっても全く心配はありません。双眼鏡がなくても鳥の声を聞くことができますし、アップで見ることだけがバードウォッチングではありません。私は常々、鳥のいる環境もふくめて見てほしいと考えていて、そのためにはむしろ、双眼鏡や望遠鏡はない方がいい場合もあると思っています。
観察会に参加したいと思ったときに、双眼鏡がないからと躊躇したりせずに、どうぞ手ぶらで参加してみてください。全国各地の野鳥を中心としたいろいろな観察会などでは、たいていのリーダーの方が望遠鏡を持っていて、参加者に順番にのぞかせてくれるはずです。中には親切な参加者も多くいて、自分が見た後で「どうぞ、どうぞ」とのぞいて見るようにすすめてくれる人もいます。そんなときには遠慮しないで、サッと見せてもらいましょう。遠慮している間に鳥が飛んでしまうということもよくありますから、どんどん見せてもらった方がいいです。そして、そんな中から自分に合う道具を見つけていったら良いと思います。何かのついでに気軽にちょっと観察するとか、じっくり腰を落ち着けて観察することが多いなど、自分の観察スタイルがある程度見えてからでも遅くはないと思います。いわば一生物ですから、よく考えてから購入しましょう。
あれば便利な道具の優先順位は人によって違うでしょうが、ここでは、まず、多くの人が最初に購入すると思われる双眼鏡から説明し、携帯品や服装のことにもふれてみます。
双眼鏡
双眼鏡を購入するときに一番大事なことは、持ったときに自分の手にフィットするかどうかです。重さと大きさを、実際に手にして確かめてください。倍率は8~10倍ぐらいで、明るさ(対物レンズの大きさ)は30~40くらいの物をおすすめします。双眼鏡をよく見ると、小さな字で必ず記されている数字があります。
たとえば “8×32 7.5°”とあるのは、8倍(肉眼で見る100㍍先の物体が、12.5㍍のところにあるように見える)で、32は双眼鏡の前側のレンズの直径。直径が大きければ大きいほど画面が明るく見えます。最後の7.5°は双眼鏡をのぞいたときの視野の角度です。この角度が広いほど広範囲をのぞく訳ですから、野鳥をとらえやすいでしょう。
値段はいろいろで、外国製のものなどには20万円もする高価な物もありますが、国産の物で3万円以上のものが無難だと思います。私も以前、外国製の物を使っていたことがありますが、故障したときに日本では修理できずに本国に送られ、戻ってくるまで半年ほどもかかったことがあって、こりごりしました。
ちなみに私が今、一番おすすめする双眼鏡は、現在私も使用しているコーワのGENESIS 33(8×33)です。また、妻が使っているやはりコーワのBD32-8(8×32 DCF)も軽いので女性には使い勝手が良いようです。これらの双眼鏡の良いところは色収差がなく、自然の色彩そのものが見え、被写体がクリアに見えることと、最短距離が2㍍強と短いところです。ピントが合う距離の最短が短いと、手は届かないくらいの高さにいる昆虫類や、木道からすぐ先の湿地に咲いている小さな花などもよく見ることができるのです。以前はルーペがほしいと思うような場合でも、今ではこの双眼鏡一つでOKです。
望遠鏡(スコープ)
野外で観察していると、いくら8倍や10倍の双眼鏡を使っていても、距離があって、もう少しアップで見たいと思うことがあります。そんなときには望遠鏡が威力を発揮します。望遠鏡は一般的には20~30倍のものが多く使われているようです。
また、これらの望遠鏡には、標的を真っ直ぐの角度でとらえる直視型と、望遠鏡ののぞき口に角度がついている傾斜型があります。実際に屋外で野鳥を見つけて、それを望遠鏡で見ようとすると、直視型の方が標的をとらえやすいかもしれません。しかし、高所にいる鳥を見る場合などは傾斜型の方が、望遠鏡の上からのぞき込む形になるので、見るには楽だと思われます。どちらが良いかは人それぞれですし、これこそぜひ、試しにのぞいてから決めた方が良いでしょう。私が自分で使うときは直視型を使う場合が多く、観察会などで高齢のご婦人方にお見せするときは傾斜型にするなど、近頃では使い分けています。
私が使っている望遠鏡は、これもコーワのTSN-884 で、TE-9Z 20~60×というズームレンズを愛用しています。コーワのレンズは、アメリカの有名大学が行った、世界中の光学機器メーカーの双眼鏡や望遠鏡を比較対照した研究結果で、ダントツのトップだったそうですから、私の闇雲なえこひいきではありませんよ。
それから、望遠鏡は手で持って見るというわけにはいきませんから、必ず三脚に取り付けなければなりません。双眼鏡に比べると、車が近くを通った振動や、少し強い風が吹いただけでもブレて見にくくなりますから、できるだけしっかりとした三脚にのせた方が良いでしょう。ですが、しっかりした三脚は重量が重いわけですから、自分で持って歩くことを考えて、雲台も含めた三脚と望遠鏡の両方をあわせた重さを考慮しなければなりません。ますます慎重に選んでください。
図鑑
大きな書店にはたくさんの野鳥図鑑が並んでいます。以前は絵の図鑑が主流でしたが、現在では写真図鑑が中心です。写真図鑑にも、掲載されている種類数や、1種類に対しての使用写真枚数にも違いがあります。屋外で野鳥を観察しながら図鑑を見ることもあるでしょうし、家で開くこともあるでしょう。これもやはり手にとって、自分にあったものを選んでください。値段はもちろん、本の大きさ、重さも本当に様々です。
ごく最近は、パソコンや携帯端末にダウンロードするなどして、手軽に手に入る電子図鑑も出始めています。私もそんな仕事をしたことがありますが、アナログ人間の私は自分が手がけたデジタル図鑑も、制作中はともかく、その後はまともに見ていませんが。でも、確かに、現在のネット社会は野鳥図鑑にも大きな影響をあたえています。私の友人にも、手のひらサイズの端末機器に何冊分もの世界の図鑑や野鳥リストが入っていて、上手に的確に使っている人がいます。本は重いので、便利だなぁと、少しうらやましくも思いますが、従来の本、私の図鑑もなかなか良いので、ぜひ使ってみてください。
初心者の方には「絵解きで野鳥が識別できる本( 2,400円+税)」と、「ポケット図鑑 日本の野鳥300(1,000円+税)」(どちらも文一総合出版)をおすすめします。
あと、種類数も使用写真点数も多くて、解説が詳しいのは「山渓ハンディ図鑑7 増補改訂新版 日本の野鳥(3,9800円+税)」(山と渓谷社)です。これは、1998年に初版を出版しましたが、その後、数回の加筆訂正を行い、2011年の暮れに大量の写真の入れ替えなども行って、新たに出版したものです。多くの野鳥図鑑の中ではロングセラーですし、手前みそですが、なかなか良い図鑑です。ぜひ選んでいただきたいと思います。
フィールドノート
観察記録などを記す、小さなノートを持っていると便利です。メモ帳でも何でも良いのですが、バッグやリュックに入れることが多いし、立ったままで記入することが多いので、ハードカバーのノートが良いかもしれません。自分がどんな記録を残すかで、ノートの体裁は違ってくるでしょう。((財)日本野鳥の会や文一総合出版などでは、オリジナルのフィールドノートを販売しているようです。そんなものもご覧になってはいかがでしょう。
服装
バードウォッチングをするときに、こういう服装をしなければいけないという決まりはありません。派手な服装はさけて、目立たない地味な服装が適しているとよく言われていますが、私の経験では派手でも地味でも、野鳥に近づける距離に違いはありません。
野鳥はどうも、色よりも人間の姿形と大きな早い動きを嫌うようで、音にも敏感です。あまり音が出ない服装なら、自分の好みのもので良いと思います。でも、場所によっては、大勢が集まる場所もありますから、他の人が不快に思うようなド派手なファッションや、シャラシャラと音が出るような素材や、光を反射するような素材、明るい蛍光色の服などはやはり避けた方が良いでしょう。
また、場所や季節によっては草や木の枝が混んでいる所に入る可能性もありますし、虫さされや日焼けなどの心配もあるので、長袖、長ズボンが無難で、いちばん適しているとは思います。楽で軽快な服装が良いとは思いますが、その一方で、英国紳士のようにビシッとキメたり、観劇に行くようにおしゃれも楽しむ、というような人がいても良いのにとも思っています。最近は「山ガール」ファッションが話題になっていますが、「鳥ガール?」の人気も出て、鳥好きの若い女の子がたくさん増えたら嬉しいなぁと思います。
靴
履き物にも決まりはありません。あえて言うなら、子どもの遠足の注意事項のようですが、普段履き慣れたものが良いでしょう、くらいです。
意外と優れ物なのが長靴です。湿地や浜辺へ行くときにはもちろんですが、草原を歩くときにもズボンの裾が汚れなくてすみます。私の親くらいの世代のバードウオッチャーたちは、どこへ行くにも長靴で、国際線の飛行機にも長靴で乗り込んだそうです。現地のホテルのレストランなどで、ちょっと困ったそうですが。でも、今では良い素材の靴がいろいろありますから、自分の歩きやすい靴をはいてください。長靴は慣れないと歩きにくくて、本当に疲れてしまいますから。
下駄やサンダルは歩くときに音がするものが多いので、バードウォッチングには不向きかもしれませんが、夏のリゾート地などでの観察は当然サンダルが定番です。あまり考えすぎないで、自分の好みで選べば良いでしょう。
その他
自分の観察スタイルができあがっていけば、おのずと季節ごとの便利な物や必要な物が分かってくると思います。人それぞれに違うので、私の思いついた物を記してみます。参考にしてください。
帽子、手袋、ポケットが多いベスト、スパッツ、レインスーツ、虫除けスプレー、携帯蚊取り線香、携帯カイロ、簡易椅子、ブラインド(人間の姿を鳥に見せないようにするための道具。私は迷彩柄の布を使っている)など。