第9回 トビに油揚げをさらわれたコミミズク

2008.06.10

●仏沼のコミミズク
1991年から1992年にかけての冬は、「今シーズンは、コミミズクが多いョ」と、鳥仲間たちとの間でコミミズクのことがよく話題になった。私もあちこちでコミミズクに出会い、うれしく楽しい冬だった。

まず最初は、龍飛崎からの帰りに寄った11月初旬の仏沼でのことだった。龍飛崎のタカ類や冬鳥がたくさん渡ってくるのを堪能して、これなら仏沼にもいろいろ入ってきているかもしれないと軽い気持ちで行った。龍飛崎があまりにもおもしろくて十分に満足していたので、仏沼にはそう期待していなかった。

しかし、仏沼に入ってすぐに、車の4~5m先の枯れ草からコミミズクが急にフワッと飛び立ってとても驚いた。辺りを見回すと、4羽のコミミズクを確認することができ、私はがぜんやる気が出てきた。餌のネズミが捕りやすい道路際を飛ぶはずだと、ねらいをつけた1羽を車で先回りして待っていると、来た来た。

冬枯れのヨシ原沿いを、傾きかけた日の光で翼を金色に輝かせ、大きな頭を下に向けて獲物を探しながら飛んでいる。幅広の翼でゆっくりと羽ばたく様子は、バックになる背の高いヨシ原にとてもよく似合っていて、息を飲むほど美しい。ああ、撮りたい。もう少し、もう少し近づいてくれ。早くしないと太陽が沈んで、撮影ができなくなってしまう。心の中で念じながら、そろそろレンズを向けてファインダーをのぞこうとした瞬間、コミミズクは進行方向をキュッと左に変えた。あっ、あれー?ヨシ原の中には、こちらから向かって右方向に直角にもう一本道路があったのだ。あーあ。

コミミズクが曲がっていくとき、私と確かに目が合った。飛びながら丸い顔を動かして、振り返りぎみに横目で見て行ったのだ。「ヘッヘー、残念でした」とでも言いたそうな顔つきだった。フワフワと飛んでいくコミミズクの後ろ姿を見送りながら、もうだいぶ暗いから撮影はどっちみち無理だったんだ。と私は自分で自分を慰めた。とにかくきれいだったのだから、見ることができただけでも、まっ、いいか。

●次々に横取りに会う
2月中旬、私は北海道へ行く途中にまたまた青森へ寄った。仏沼よりも少し南に位置する百石町の田んぼへコミミズクを見に行ったのは、この年正月早々にも訪れていたので2回目だ。正月以降、雪がかなり降ったらしいので、同じ所にいてくれるか心配だった。しかし大丈夫。数は少なくなっていたが、相変わらずフワフワと飛んでは、上手にネズミを捕っていた。しっかり居ついているコミミズクを相手に、地元の鳥屋たちもけっこう楽しんでいたらしく、顔見知りも何人かやって来ていた。

私はコミミズクがいちばん飛んでくれそうな休耕田にねらいをつけて車を止めた。寒いのは我慢して、窓を全開にして待ち受けた。案の定、コミミズクは私が想定したコースを飛んでくれてフワフワする。雪があるだけ、前回よりもけっこうよい絵になる気がした。

私がねらっていたコミミが何回目かにネズミを捕らえて雪原から飛び上がったその直後、突然現れたコチョウゲンボウがコミミの持っているネズミを奪い取ろうとした。だが、失敗。そして次にはホッとする間もなく、なんとハイイロチュウヒが現れてネズミを横取りにかかった。機敏なハイチュウの攻撃に、哀れなコミミはとうとう獲物を地上へ落としてしまった。すると今度はトビが現れて、飛びながら足を伸ばしてまんまとネズミをせしめ、悠々と持ち去ってしまったのだ。ほんの短い時間での出来事だったのに、気がつくとカラスまで近づいて来ていた。恐らくコミミは呆然自失といったところだったろう。しかし私には、コミミよりはハイチュウのほうがずっと情けないやつに見えてしまった。コミミよ、気の毒に。

ここの田んぼでは、そんな様子を何度となく見ることができて、一日中飽きることがなかった。コミミは断然狩りがうまいが、せっかくの獲物をほかの猛禽類にしょっちゅう横取りされていた。コチョウゲンボウ、チョウゲンボウ、ハイタカ、ハイイロチュウヒ、トビなどにねらわれるだけでなく、コミミズクどうしで奪い合うことがあった。見ている私はなんとなくコミミズクの味方のような気分だったが、猛禽類といえども冬を過すのは本当にたいへんなのだと改めて思わされたのだった。

大好きなフクロウには、どこで会っても、いつもワクワク、ドキドキさせられています。これからもますますの「ワクワクドキドキ」を期待して、そして、フクロウファンのたくさんの方々にも、ステキな「ワクワクドクドキ」がありますようにお祈りしています。ありがとうございました。 (完)

“バードウォッチングマガジン「BIRDER」(文一総合出版)に1994年4月号から、9回にわたって連載していたものです。”

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