第5回 天敵は野良ネコ  コノハズク

2008.06.14

●あこがれのコノハズク
コツ、コォー。コツ、コォー。何と神秘的な泣き声だろう。立ち止まって聞き入ってしまった。いつまでも聞いていたい不思議な声だった。1959年7月ころ、まだ中学生だった私は数人の仲間たちと、学校の先生に付き添われて山梨県の三ツ峠に登った。頂上で日の出を見ようと、まだ暗い夜道を頂上に向かって歩いているときに、生まれて初めてコノハズクの声を聞いたのだ。

長い間のあこがれの鳥であるコノハズクをようやく見ることができたのは、それから25年もたった1984年のことである。大学の後輩である宮彰男を通じて、青森県三戸高校教諭の向山満先生にお目にかかり、先生が生徒さんたちと観察していたコノハズクを見せていただいたのが、きちんとコノハズクを見た最初だ。そのときに撮影もし、翌年にも別の所で撮影できたので、一度撮れるとこんな簡単に続けて撮れるようになるものかと、うれしさで舞い上がったものだ。

しかし、そうは問屋が下ろさなかった。フクロウの仲間では日本一小さいコノハズクの写真は、仕事上けっこう使用頻度が高い。そうそう同じ写真ばかりを使うわけにもいかないのに、1985年以来とうとう今まで撮影できないでいるのだ。毎年、今年こそはと思いながら、シーズンになると青森へ電話を入れる。そのたびに今年もだめだという返事が帰ってくる。

それでも何度かは、いよいよ今年はと期待でいっぱいになった年もあった。例えば昨年の7月などは、コノハズクへの思い入れも最高潮に達していた。青森の宮から電話があり、コノハズクの営巣が見つかったという。ヒナが3?4羽いるがまだ小さいので、数日たってから来るようにとのことだった。私はもううれしくて小躍りした。鳥に関しては話がでかくなる傾向のある宮のことも、「さすがは宮だ、さすがは俺の後輩だ」などと、こういうときには現金にも急に株が上がる。

私は早速、鳥仲間の小林姉妹に電話をした。コノハズクの営巣が見つかったら、どんなことをしても絶対に行くから連れて行ってほしいと、前々から言われていたからだ。小林姉妹もとても喜んで、たとえ土曜日や日曜日でも、お店(小林姉妹はおそば屋さん)は閉めて行くと最高に張り切っている。

●野良ネコが………
いよいよ明日出発という日。すっかり支度もでき、はやる気持ちを抑えていたとき、電話が鳴った。何気なく受話器を取ると宮からだった。「コノハはだめになりました。ネコか何かにやられてしまったようです」。そんなに恐ろしいことを、宮は東北なまりののんびりした口調でいとも簡単に言うではないか。何てことだ。そんなに簡単に言ってくれるなよ。私はあきらめきれずに、その様子を何度も繰り返して宮にたずねた。いくら詳しく聞いたからといって、コノハズクが戻って来るわけでもないのに。

この3年前にも同じようなことがあったのだ。地元では現場の状況から、そのときも野良ネコの仕業ではないかと話していた。これで2度目である。小林姉妹にすぐに電話を入れると、2人ともそれはがっかりしていた。しかし、後でわかったことだが、私たちよりももっとショックが大きかった人がいた。愛知県に住む、私と同業の山形則男さんである。

山形さんはコノハズク営巣の情報が入るとすぐに、東名?東北自動車道を1人で運転して突っ走り、コノハズク撮影を夢見て青森へ行ったそうなのだ。訃報を現地で聞くことになったわけだが、その無念さははかり知れない。あーあぁ。

山形さんによると、そのとき宮にさんざんいい話を聞かされたそうである。「今回のコノハズクの営巣は、以前叶内さんが撮影した営巣木よりもずっとよい形の木で、撮ればすばらしい写真になることまちがいなしだった」と。だめになった後にそんなことを聞かされたら、山形さんでなくても残念さが数倍に跳ね上がってしまったことだろう。本当にお気の毒様。私たちはまだ出かけてはいなかったのだから、山形さんに比べればまだましだったと変に納得した。

●対策は万全
その後の数日間は、野良ネコ対策の話で盛り上がった。小林姉妹の家の餌台で実際にやっていたネコ対策は、竹串や削ってとがらせた割りばしを地面にたくさん差しておく方法。でもそれだけでは心配なので、ネコが嫌がる臭いがする薬(いろいろなタイプの商品があるらしい)を使ってみることにした。餌台に近づいてくる野良ネコには日ごろから手を焼いていた小林姉妹は、積年の恨みで張り切って実験をしたのだ。

実験の結果、薬は餌台にやって来る鳥に影響がないことにも自信をもったし、後はコノハズク営巣の吉報を待つばかり。一番効きそうな薬はもう用意してある。連絡があるまでは待てない気分なので、薬だけでも青森へ送ってしまおうかと思っている。

 

“バードウォッチングマガジン「BIRDER」(文一総合出版)に1994年4月号から、9回にわたって連載していたものです。”

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