第3回 角のあるアオバズク!?

2008.06.16

鳥仲間の小林姉妹とは、年齢は離れているが、初対面以来親戚以上の付き合いをしている。野鳥写真を撮っているのは、姉さんの詩ちゃん。妹の亜子ちゃんはよく気がついて、詩ちゃんの口うるさいマネージャーのよう。
そんな2人が6月26日、いつになく夜遅く張り切って私の家にやって来た。家に上がるなり「入ってたよっ!」「チリチリチリって、虫が鳴いてるような声がしてた」「巣穴を出入りしてるのが見れたよ」「間違いなくアオバズク、模様も少し見えたもん」と、うれしそうな2人は大騒ぎでまくし立てる。

この日2人は、やはり鳥仲間で自然写真家の大塚豊氏から、フクロウ類がすむ環境に適していると、去年数えてもらった所へ行ってきたのだった。ムササビを撮りに行った大塚はアオバズクならいるかもしれないと言っていたし、「へぇーっ!やっぱりアオバズク?」とこちらも盛り上がり、翌週の木曜日、詩ちゃんのお店(詩ちゃん一家はおそばやさん)が休みの日にみんなで行ってみることにした。

7月3日の午後、小林姉妹と大塚、私と妻の5人は、夕食用の弁当を持ってアオバズクの撮影に出発した。現地にはまだ明るいうちに着いた。アオバズクが活動し始める日没までは少し時間があったので、巣穴をのぞいて確認しようということになった。そこはお寺の境内で、さっそくご住職にお願いしてはしごをお借りした。ご住職は野鳥がお好きな方だったが、お忙しいらしく「どうぞ、ごゆっくり」と言って下さってすぐに庫裏の方へ戻られた。

私は仲間たちの見守る中、アオバズクの巣穴がある背の高いケヤキに慎重にはしごを架けた。注意深く一段ずつ上って巣穴をのぞける高さまで上がり、顔を巣穴に近づけようとしたその瞬間、急に何かが飛び出した。鳥だということはすぐにわかったが、それは5?6mもヨタヨタと飛んだかと思うと、あっと言う間に落ちるようにしてやぶの中に入ってしまった。急なことで、かたずを飲んで見ていたみんなも「ああっ!」と叫んだ。

私以外のみんなは口々に驚きの声をあげて、鳥が入ったやぶにかけ寄る。私もあわててはしごを降りた。先に鳥を見つけた大塚は「アオバズクじゃないよ」と、彼らしく穏やかに言った。隣からのぞき込んだ詩ちゃんと亜子ちゃんは「あれーっ!?この鳥、角があるよ」「アオバズクって角あったっけ?」などと、おかしなことを言っている。みんなの所へ行ってみると、その鳥はなんとオオコノハズク。今日明日にも巣立ちそうな、オオコノハズクのヒナだったのだ。私は「オオコノハだよ、オオコノハじゃないかー」と言いながら、うれしくもあり、どうしてもっと早く気がつかなかったのかと悔やまれもして、複雑な気分になった。

しかし、そんなことで時間をとってはいられない。私は大塚からオオコノハズクのヒナを受け取ると、またはしごを上ってそうっと巣穴に戻した。中にはも1羽いて、合計2羽のヒナが育っていたのだ。ヒナを帰すと、落ち着くまでのしばらくの間巣穴を帽子でふさぎ、少しずつ帽子をずらしながらはしごを降りた。しばらくして親鳥が巣に入るのを確認すると、みんなホッとした顔で弁当を食べた。本当は心残りではあったが、今夜はオオコノハの親子を驚かせてしまったわけだし、撮影はやめにして早々にその場を後にした。

帰途に着きながらも、「まったく、どこがアオバなんだよ、見たんだろう?」と、私は小林姉妹にグチグチと文句を言った。2人は「だって暗かったし,オオコノハなんて見たことなかったもん」とケロッとして言う。そして、「でも、オオコノハだってよかったでしょ?すごいじゃない」とも。

そう、そうなのだ小林姉妹が初めにアオバズクだと言ってきたときに、私が気づくべきだったのだ。それまでの長い間の観察で、アオバズクの巣立ちの日は、おおむね7月23日ころだと私は決めていた。ヒナが6月26日に、チリチリチリとよく聞こえるほどに鳴くはずはなかったのである。

2~3日後、その巣から無事に巣立ったヒナを、ケヤキからそう遠くないやぶの中に見つけて撮影した。しかし、まだ近くにいるはずの親鳥の姿はどうしても見つけられず、とうとう撮影することができなかった。

翌年、その巣はムササビに乗っ取られてしまって、オオコノハズクはそこでは繁殖せずじまい。あーあ,もっと早く気づいていればなあと、いまだに悔やんでいるが、悔やみきれない私なのである。

“バードウォッチングマガジン「BIRDER」(文一総合出版)に1994年4月号から、9回にわたって連載していたものです。”

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